「ご存知かと思われますが、四月一日、とうとう米軍が沖縄本島に上陸いたしました。
四月八日の夜明けに、沖縄に突入できるよう準備せよと仰せ付けられました。……そう承ったのが四月五日のお昼過ぎですから、些か急ではありますね。
……ええ、候補生の皆様には退艦していただきました。矢矧様もそうでございますね。連れて行くよう食い下がる方もいらっしゃいましたよ。頼もしい話でございます。しかし、艦長もおっしゃいますように、候補生の皆様には我々が出撃した、その後のことを考えてほしいのです。“未来”とは、人間が持つ有限の財産でございますから。
あとは、葛城様や龍鳳様にお任せいたしましょう。
今回の作戦、生きては帰って来られないのでしょう。どなたからも、その覚悟を感じます。
ですが、私とて、ただで転ぶつもりは毛頭ございません。
矢矧様、冬月様、涼月様、雪風様、浜風様、磯風様、朝霜様、どうぞよろしくお願いいたします。
霞様、初霜様も、急で申し訳ございません。来て下さってありがとうございます。
さあ、皆様、参りましょうか。」
そう言い終えると、彼女はまるでなんでもないとでもいうように、いつも通りの微笑みを湛えた。
1945/04/06 1520 第二艦隊第一遊撃部隊 徳山沖を出撃
1945/04/07 1423 北緯30度22分 東経128度04分 戦艦大和 転覆 爆沈
※北緯30度22分は戦闘詳報に記された沈没地点です。
実際の大和の艦体は北緯30度43分に沈んでいるそうです