「1942年10月13日はマスタングにとって運命の日だった」
「4年前のその日は、偉大な先達が初飛行した日だ。本当は尊敬してたよ、……いや、なんでもない」
「兄貴は本当に世話になったよ、俺だけじゃなくてパイロットって皆そうだろ?仕事に誇りを持てって教えてくれたのも彼だよ」
「兄貴分っていえば、兄貴面がいたな。初飛行が2か月しか違わないから、殆ど同期みたいなもんだけど。どこにでも行くし、何でもできる、しまいには空母から出撃もしちまう、最高の兄弟だ」
「英国の空を守った大英雄。大好きな先輩。美しい翼を持つ飛行機。高い場所を目指すことを教えてくれたんだ」
「彼はRAFの顔見知りの中でも比較的よくしゃべった気がする。戦闘機の話はもちろん、戦闘爆撃機の話とかした。誤認されたり誤認したり?そんなのお互い様だよなぁ?」
「うん、うん、もちろん俺が攻撃機やってたときのこともよく覚えてるし、彼女と一緒に作戦をこなしたこともあるし、世話になったよ。いや、妹さんの方はよく知らねぇけど……」
「……緊張したね、マジで緊張した。だけど高高度を行く爆撃機の護衛は戦闘機の花形だよなぁ」
「ドイツの厄介なやつ。飽きるほどやり合った。まぁ俺の方が強いけどね。メッサーもそうだが、ドイツのやつらはどうしてこう…………ああ、なんだかんだ語るほどあるんだな、やつらとの思い出が」
「太平洋の方で意外と厄介だったやつ。諦めが悪い。まぁ俺の方が強いけどね。足おせぇし、あんなオンボロに負けるわけねーよと思ってたらダメだな」
「……ん?ああ、びっくりだろ?俺から枝分かれした機体だよ。なんだか変な感じだよな、俺も最初はそうだった。ただ、下の兄弟ができたのがなんか嬉しくなっちゃってさぁ、間に立ってみたかったってだけ」
「俺たちの生まれは同じ国だが、レシプロ機同士の最後の戦闘でお互い祖国を離れて戦った。なんだか妙な縁の巡り合わせだよな。戦闘の結果?……試合に負けて、勝負に勝ったって感じかな」
「思い返してみれば、色んな出会いがあったんだよな。人も飛行機も色んな立場や使命を背負って生まれてくるけど、”思い出”は一人じゃなかなかできない。そして、俺の思い出の始まりは80年前の、今日、この日だった」